「金閣寺」によって、古典主義的な思想を完成した三島氏が、ロマン派的に移行して行く過程の傑作、と澁澤龍彦氏が賞賛した作品。文壇で本作が不評だった中、三島氏は随分勇気付けられたと言う。
退嬰したムードが漂う作品。主人公は母子家庭の少年。そこに、船乗りの男が現われ、母の愛人となる。壁の孔から、少年は母と男の情事を盗み見る。壁の孔は「この世のものならぬ光輝への小さな一点の通路」であり、少年は宗教的エクスタシーを感じる。私も十代の頃に読んだ際、後ろめたいドキドキ感を感じたものだ。通俗な設定のようだが、三島の筆力で一歩手前でギリギリ留まっている。ここまでは、"海と覗き孔"のロマンの香りが漂う。ところが、壁の孔は塞がれてしまう。絶望感に陥った少年は、仲間の少年達と共に超越的な"神"となって、...。
男は、「栄光と死と女の三位一体」を夢想していたのだが、他ならぬ「子」によって復讐されると言うアイロニー。三島は、「少年時代の自分に殺されたいという甘い滅亡の夢」を持っていたと言うが、本作でまさしくそれを実現している。「三島と男と子の三位一体」の混沌から創出された佳作。