本著者の目論見の一つは、心性史を社会上層部と中産・下層部から読み解こうとする点にある。マルキシズムというよりはむしろ「トップ・ダウン」、「ボトム・アップ」の視点というほうが正しいであろう。
さて、本書は姉妹編の『魔女狩りの社会史』で見られる「トップ・ダウン」の視点と対を成す「ボトム・アップ」の視点で千年王国主義(メシアニズム)を、様々な要素に分割し関連を考察したものである。そこには、いみじくもE・H・カーが『歴史とはなにか』で述べているように"歴史家は裁判官ではない"という姿勢に貫かれた、冷静なまなざしがある。それが心性史の類書に参考文献として多く引用されているひとつの理由であろう。もちろん、十分かつ膨大な一次資料をもとに精緻な議論がなされている点も見逃せない理由だ。そして現代思潮に通ずる諸派の概観、とりわけ自由心霊派の考察には驚きを隠せなかった。
訳文も読みやすいので、二段組と分量は多いもののぜひ手に取って見てもらいたい一冊である。