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ところがもとより1000枚のばらばらの紙片、これではどうも学びにくい。そこで武帝は、周興嗣という詩文をよくする者を呼び寄せた。普段は詔勅の起草などをやってる人物である。
「この千文字を余さず使って、韻文をつくれ」。
周興嗣は命を受け、一晩かかって四字一句、計二五○句の整然たる韻文一編をつくり、武帝に奉った。彼はその苦心のために一夜で髪が真っ白になったという。世界一速成の、命がけの教科書。
よくできた韻文は唱えやすく、したがって覚えやすい。用いられる修辞にもそれぞれ典故(モトネタ)があり、その後出会うであろう漢文のエッセンスが満載である(注解は、千文字しかない本文に、凝縮されたネタを丁寧に説きほぐして、漢文古典マメ知識の宝庫である)。おまけに字はあの王羲之だ。
伝説の当否はともかく、『千字文』は漢字文化圏の児童が最初に文字を学ぶ初等教科書また習字手本として永らく用いられた。中国大陸はもとより、朝鮮半島、日本、モンゴル語訳まである(近世には英仏独伊羅語に翻訳され、ヨーロッパ版も作られた。
『千字文』は中国の「いろは」である。本当にこれで数を数えてたことがあるらしい(天-1、地-2、玄-3、黄-4、……)。科挙の試験の席番号なんかはこれであった。
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