本書(芦辺拓『千一夜の館の殺人』光文社、2009年8月20日発行)は、素人探偵・森江春策シリーズに属する推理長編である。2006年に単行本が刊行され、今回文庫化された。
森江春策シリーズは事件に巻き込まれた弁護士・森江春策が謎解きをする推理小説である。フィクションは現実と非現実の微妙なバランスに醍醐味がある。現実から乖離した物語はリアリティに欠ける。一方で中には小説より奇妙な現実もあるものの、一般的には現実そのものでは面白みに欠ける。
その点、刑事事件中心の弁護士を探偵役とする本シリーズの設定は巧みである。刑事事件を扱う弁護士は高校生や家政婦の探偵に比べて不自然さがない。しかし現実の弁護士は当事者が収集した事実を元に法的主張をまとめることが仕事であり、探偵のように自ら事実を収集することはない。