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十蘭万華鏡 (河出文庫)
 
 

十蘭万華鏡 (河出文庫) [文庫]

久生 十蘭
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商品の説明

内容紹介

フランス滞在物、戦後世相物、戦記物、漂流記、古代史物…。華麗なる文体を駆使して展開されるめくるめく小説世界。「ヒコスケと艦長」「三笠の月」「贖罪」「川波」など、入手困難傑作選。

内容(「BOOK」データベースより)

パリ滞在に材をとった西洋読物、大戦後の世相小説、古代史物語、幕末物、戦記物…。痛快無比の傑作群。

登録情報

  • 文庫: 320ページ
  • 出版社: 河出書房新社 (2011/2/4)
  • ISBN-10: 4309410634
  • ISBN-13: 978-4309410630
  • 発売日: 2011/2/4
  • 商品の寸法: 15 x 10.6 x 1.8 cm
  • おすすめ度: 5つ星のうち 4.5  レビューをすべて見る (2件のカスタマーレビュー)
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By Sebastian Flyte トップ1000レビュアー VINE™ メンバー
現在刊行中の久生十蘭全集はコレクター向きの値段で、一般人にはそう簡単に手を出せるようなものではない。かといって、これほどの作家ならばもっと読まれていいはずだ。ならば、現在手に入りやすい短篇を除いて、比較的入手困難なものを集めた短篇集を出して行こう。もし河出文庫の気概がこれくらいのものであるならば、私は本書をもう二冊くらい買って応援する用意がある。そして、さらなる短篇集を期待したいところだ。

昨年同文庫から出た『ジュラネスク』には短篇が10篇収められていたが、今回の文庫には12篇が収められている。値段を考えれば、良心的な数である。また、12篇とも30頁前後の長さで、うまく並べたものだと思う。バランスが非常に良く、リズム良く読み進めることができる。また、これらの短篇群は、他社の文庫に入っている作品とくらべると、やや地味かもしれない。ところが、丁寧に読んでみると、どれ1つとして緩慢な作品がないということに気づかされる。このことは、十蘭作品の質の高さを物語っているといってもよいだろう。

個人的には、「雲の小径」という作品が傑出していると思った。まず、冒頭の2段落(231頁)が絶妙である。十蘭は、この冒頭部分に、ほぼ同じ意味合いの「曖昧」「模糊」「濛気」「溷濁」という4つの言葉を意図的に配置し、このあとの展開で夢と現実のあわいが文字通り曖昧模糊になることを予兆する。読者はここを読み、十蘭の語彙の豊富さにまず驚くことになる。さらに、この短篇を読み終わる頃には、この冒頭部が周到に準備された演出であったことに気づき酔うのである。その意味で、この作品は、高い芸術性(言語表現の巧みさ)とエンターテイメント性(小説の面白さ)が見事に融合された好個の例であるといえよう。また、それが久生十蘭の文学なのだということもできるだろう。

この短篇には、もう1つ別の魅力がある。よく知られているように、十蘭には改稿癖があり、かつての作品を手直しして別の題を付けて発表したり、その一部を別の作品に織り込んで違う作品にしてみたりということを頻繁に行った。「雲の小径」も、そういう作品のひとつだろう。例えば、話の設定が「大竜巻」という別の短篇に酷似していたり、これまた別の短篇である「花合せ」にあった男女のセリフ(163頁)のある一部がほぼ同じ形(245頁)で使われていたりするのだ。このことは、十蘭文学の創作の秘密をかいま見れるという点で、ファンにはたまらなく楽しい読書体験を提供してくれる。また、この3作品を同じ一冊に配列したというのは、まさに出版する側の編集の妙である。
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 どこからともなく漂ってくる異国情緒(あるいは、異世界情緒、と言うべきか)の風と、語り物(たとえば、落語や講談)を思わせる軽妙な語りがあいまって、独特な世界が立ち上がってくる。軽い紹介しかしないが、冒頭に配された「花束町一番地」、その語り出して間もない箇所を引用しよう。

うるさい親爺やおふくろばかりではない、お嬢さんたちはいろいろなものを岸壁へ残して行く。/そういう花々しい船が出帆した後で、波止場人足が妙なものを岸壁で拾った。あまり可笑しな恰好をしているので、それをある物識に見せたら、これは貞操帯という格別なもので、ザラには落ちていぬものじゃと仰言った。

 こんな作品を残した作家がいたなんて! 顔がほころんでくるのは、気のせいだろうか?
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