「御馳走読本」というのは叢書名なのでしょうか。フレンチレストラン「コートドール」の代表的な料理10皿にまつわるエピソードとレシピを掲載した料理本、というのが表面的な体裁です。
けれども本書の内容は実は、斉須政雄という青年がフランス修行や友人との出会いを経て料理人として成長する過程を自らの言葉で示したビルドゥングス・ロマンです。
特にフランスでの師や友人への尊敬にあふれる記述と、そんなにも深い人間関係を持ってしても日本で独立する夢をゆるがせず、帰国の道を選んだ斉須さんの日本人としての誇りとプロフェッショナルとしての真摯な姿勢が胸を打ちます。
ですからフランス料理に興味がなくても、コートドールという店に関心が持てなくても、このすばらしい職業人の語る言葉を読む価値は大いにあります。
大いにあります、あります...が、この10皿にまつわるエピソードとレシピを知って、それでもフランス料理とコートドールに無関心なままでいられるとは、正直、想像できないというのも事実です。
本書を読んでからコートドールを訪れる喜びは、好きな文学作品がすばらしい映像作品としてよみがえった喜びにも勝ると思いますので、ぜひ経験していただければと思います。