●十字軍側。
十字軍の側では主に、第二次十字軍の無残な失敗と、それにより兵力は常時不足し、人材も枯渇し最高指揮官にも下士官にも恵まれない中、ヨーロッパからの増援不在の約四十年に渡り、十字軍国家が存続し得た理由を検討している。
その方面では主に防衛向きの常備軍としてのテンプル騎士団、聖ヨハネ騎士団(病院騎士団)の存在の重さとそれぞれの性格の違い、彼らを中心とした優れた多数の城塞による防衛戦略、イタリア海運都市国家群による経済と海軍力のサポートの意義を描いている。
●イスラム側。
イスラム側からはどうしても団結できなかった彼らがゼンギ、ヌラディン、そしてサラディンという英雄の出現を経て一体となっていく様を描く。
彼らの足跡を追うことがそのまま、第一次十字軍に十字軍国家建設を許したイスラム側の不備の再確認にもなっている。
●美点。
こうした全体の構図の描き方、それを導きだす論理と理由の提示はいつもながらとても面白い。
サラディンが城塞や海軍力や経済浸透といった障壁をどう無力化したかの描写もいい。
●いつもながらのアレ。
ただ、強烈に好みを押し出し過ぎるやり口の極端さはいつも通り。
病院騎士団大好き、テンプル嫌い。ビザンチン大嫌い。
若き癩病の王ボードワン四世激萌え、サラディン痺れる憧れる(これは仕方ないか)。
いつもの事ながら、司馬遼太郎の如く歴史エンタメ小説として読まれるべきもの。
ただ、司馬遼太郎の幕末明治及び戦国もの等には同じくエンタメの裏表セットとして山田風太郎がいて、併せ読むことで謎のバランスが取れるものと思えるけど、塩野七生にはそれに相当する相手がいないので色々厳しい。
それもまた、いつも思わされる事だ。
●なんだか心配。
あと、「大切なことなので二度言いました」な重複記載の異様な多さは一体なんなのだろう。 分かりやすいのはいいが、さすがに目立ちすぎて気になる。
作者というより編集の問題なのかも。 なんだかひどく危うい。