いやー、今回も面白い。でも、洋モノの十字軍に関する本を読んだらいいじゃない、と言われる方も多いかもしれません。でも、そうした本には、ぼくたち極東に住む人間が欠落している西欧の常識みたいなものに気をかけてくれません。その点、塩野さんの本には、そうした情報を補ってくれる丁寧さと心配りがあります。
この本だったら、例えば、第一次十字軍で手勢の小兵を率いて大活躍したタンクレディ(Tancred)。塩野さんに、こう書かれるとハッとする方多いんじゃないでしょうか。《歴史上のタンクレディは、若さの象徴と見なされてきた》《二十世紀。ヴィスコンティが監督した映画『山猫』である。あの映画でアラン・ドロンが扮した若さあふれる老公爵の甥を、この映画の原作を書いたシチリアの作家ランペドゥーザは、タンクレディと名づけたのであった。今なおヨーロッパ人は、それもとくに南欧の人々は、タンクレディという名を耳にするだけで、ほとんど自動的に、信義に厚くそれでいて若々しい、永遠の青年を想い起こすのである》(p.278)
なるほどなぁ、と思ったのは、第一次十字軍というのは、この後に続いたフランスやイングランドの有名な王たちとは違い、日本で言えば、部屋住みの次男三男たちが、領主たちの代理のような形で遠路はるばるドイツやフランスあたりからボスフォラス海峡を渡り、いまのトルコ、シリア、レバノンをほとんどロジスティクスの支援を受けることなく闘いながら進み(逆にビザンチン皇帝からは嫌がらせを受けながら)、イスラム側の油断とマインドコントロールされた虚仮の一念のようなパワーでエルサレムを墜としてしまったという、ちょっとした奇跡のような企てだったんだな、と。オールスター登場となる次巻が待ち遠しい!