十字軍についての日本での言及は、福沢諭吉の『西洋事情』に始まるとのこと。「十字軍」という言葉は明治3年に西周が使い始めたものらしい。先ず、開国当時の日本人の知識欲の貪欲さには驚く。
十字軍についての研究は、欧米では近年、著しい進展を見せているとのことであるが、日本では教科書的な理解が普及しているものの、それは必ずしも「十字軍」の実像を捉えていないという。本書は、最近日本でも進みつつある「十字軍」の研究をもとにその実像に迫る。従来のステレオタイプ化された十字軍の認識の変更を余儀なくされよう。
「十字軍」はウルバヌス2世の主導により異教徒に占拠された聖地解放を目標として宗教的情熱から始まったことには間違いない。しかし、十字軍に参加した国あるいは王、諸侯・騎士にはそれぞれに現世的な目論見もあり、誠に人間臭いドラマを演ずることになる。また、十字軍の矛先が、必ずしも聖地を占拠した異教徒に限られた訳ではないことも十字軍の理解に重要である。
最近になって十字軍のことが取り上げられることが多く取り上げられるようになってきたのは、9.11同時多発テロの影響もありそうである。しかし、本書では敢えて「十字軍思想」を論ずるといった視点はなく、読後感を爽やかにしている。なお、本書読了後に聖ヨハネ騎士団を描いた塩野七生著「ロードス島攻防記」を読まれることをお勧めしたい(著者は聖地国家と騎士修道会について意図的に簡略に扱ったとしているが)。