フランスの疑獄事件の中でも最も深刻なものだったスタビスキー事件を題材にしたフィクション。
十蘭のミステリーでは怪奇ムードを盛り上げるためか、主要人物の詳細なスケッチは後半まで保留されることが多いが、本作では土台が事実なので短編で見せる密度の描写力を遺憾なく発揮している。
スタビスキー事件や政治状況に関する説明も的確で意外なほどである。
難を指摘される十蘭の進行スピードの速さも、「スタビスキー事件」の展開が速かったことがあるし、「金狼」に較べればずっとゆるやかと言える。
まとめると、十蘭の悪い処が一切出ずに良い処は全部出た作品で、十蘭の長編における最高傑作だと思う。
蛇足だが、「大逆事件」の弾圧による被害者を登場させることで日本を二重映しにして批判したとの見方に対しては、その後に「帝人事件」で痛烈な検察批判の判決が出ている事を指摘したい。
「大逆事件」をデッチ上げた検察幹部は「帝人事件」でもデッチ上げを主導したが、後者では判事に見破られて失敗した。本作における展開と比較されたし。