本書を紐解くと、語り口調であったため驚いたが、これは市民セミナーでの講義をもとにした本であった。
古代ギリシアからローマ帝国へ、そして中世ヨーロッパに入りルネサンスへ、近代へ、という直線的流れに一石を投じたのが、
本書の論ずる12世紀ルネサンスという概念である。当時、実はあまり学問や技術が進んでいなかったヨーロッパが、
古代ギリシアの遺産を取り入れながらカリフたちの庇護のもと素晴らしい発展を遂げていたアラビアの学芸に接し、
翻訳活動を通じて12世紀ルネサンスを展開していったのである。その様子を、主に理系書籍の翻訳活動を紹介しつつ追った好著。
第一講から第七講まで7つの講義が収録され、著者の個人的な研究動機から文学についてまで幅広く解説される。
なぜこの時期にルネサンスがおこったのか、翻訳などがどこで誰によりなされたのか、キリスト教世界とイスラム圏の交流はどうか、
など明確な問題意識の下に論じられている。主にスペインにおける両文化圏の交流、コーラン翻訳に端を発する比較的正しいイスラム理解、
自然を全て神の摂理に帰結させるのではなく合理的説明を試み、結果かえって神への理解を深めようという姿勢、
そもそもアラビアで学芸が栄えていた理由、など多くの非常に興味深いトピックが扱われており、大変面白く読めた。
一般向けセミナーを基にしているだけあってわかりやすく、膨大な固有名詞に圧倒されはするものの、それは理解を妨げるものではない。
数多くの中世人たちが、アラビア語やギリシア語などをみっちり学び、語派の異なる言語の間で苦労しつつ工夫しながら活動したことがわかる。
随所に地図や写本の写真も掲載されている。当時作られた翻訳書の表、索引つき。