30歳の時、何気なくこの本を手にした。多感な?高校時代、この本に接しなかったことに私は安堵した。仮にこの本に触れていたら、新聞配達員と自分の境界線を見失い、将来に絶望していたと思う。新聞配達員の彼は「浪人生」でもなく「社会人」でもない。当時は今と違い「フリーター」「ニート」などという言葉はなかった。絶望と挫折、孤独と屈折。目に見えない焦燥感。私はある朝、満員の通勤電車でこの本を読んでいた。たまたま隣に立っていた男性もこの本を読んでいた。勇気あるその男性は、本にカバーをかけていなかった。「オレは中上の世界を知っている」という表情の彼は、電車内で明らかに違和感があり、殺気立っていた。社会の底辺で生きる新聞配達員の彼の流した「涙」の意味は、男でなければわからない。