本書は、「医療系シンクタンク」に勤務する著者が、経済学の基本である「需要・供給曲線」を駆使して、病院レベル、地域レベル、および国レベルの医療経済を説明している。著者はどうやら、金融系のバックグラウンドであり、医療については病院勤務の経験があるらしい。しかし、具体的な勤務先を明かしていないので、本書は「余技」として書かれたようである。
医療経済学の分野をそれなりに勉強しているものとして、本書のアプローチには非常に違和感を持った。第一に、医療経済学の先学の本が一書も引用されていない。第二に、末尾で厚生労働省関連の医療データを紹介していながら、本文の中では、唯の1ヶ所も(!)生の医療データが分析されていない。第三に、公定価格という基本前提に立った時に、医療分野で「需要・供給曲線」に基づいたモデルが成り立つのかどうかの実証が全くなされていない。
本書を、「経済学の基本的な考え方を医療に適用し、思考実験してみました」という謳い文句なら納得する人もいるかもしれない。しかし、「医療資源を最適に配分するしくみを説明」(本書の帯より)を真に受けて読む人には、現在の日本の医療問題解決へのヒントは全くなく(あっても、あくまで思考実験のレベルであり、実データによる検証はない)、大きな失望を味わうことだろう。