医療事故が発生した場合,それが真に解決されるか,あるいは紛争・訴訟へと発展するかは,行った医療行為に過失があったか否かということよりも,事故の現場保存・原因究明から始まる一連の初期対応(事案によっては「事故調査」までを含む)が適切に行われたかどうかに大きく影響されるように思われる。また,医療機関が,事故後に,真に有効な再発防止策を検討できるかどうかも,現場の保存をはじめとする初期対応が適切に行われていたかどうかに大きく影響されるといえる。
このような認識のもと,編者らは,これまで,医療事故対応のあり方について,現場の医療安全管理者や研究者と,それぞれの専門を生かしつつ一緒になって,少しずつ検討を重ねてきた。また,2006年からの2年間には,厚生労働科学研究として,具体事例に対する初期対応フローチャートの作成を行った(課題名:医療事故対応百選)。本書は,このようなこれまでの検討の結果を書籍としてまとめたものである。
本書は,総論編・実践編の2つの編から構成されている。総論編では,まず関連用語の定義を行った後,初期対応における不可欠な作業につき,作業の意義・内容を解説している。また,事案によっては,事故後,医療機関が事故調査を行うことが必要となり,また,個人情報保護の検討が重要な課題となることから,これらについても解説している。続く実践編では,初期対応チャートの作成方式を記した後,基本的な事例につき,対応例を示している。
以上のような記述からなる本書の出版を企画した理由は,いくつかある。1つは,冒頭で示した認識を編者らがもっていたことにあり,また,実際に,編者らが,現場の複数の医療安全管理者から,医療事故初期対応の重要性を確認する機会を確保するよう求められたことにある。近年,医療紛争の解決方式につき,さまざまな検討・取り組みが行われているが,いずれの取り組みも,現場の保存から始まる初期対応が行われていてはじめて,十分に機能する。このことを医療機関が今あらためて確認する必要があるというのである。
出版を考えたもう1つの理由は,初期対応の重要性を確認するにとどまらず,初期対応の方法を具体的に提示することによって,今後の検討のたたき台を準備し,この分野の議論の深化に寄与できればと考えたことにある。つまり,本書も,(当然であるが)完成版ではなく,われわれの取り組みの中間成果物である。この意味で,読者の方々には,本書を議論の素材としても活用していただきたいと思う。
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