本書は、法学教室に連載されたものを中心に構成されており、初学者にもわかりやすいよう、ときにユーモアを交えながら、医療と法をめぐる諸問題を論じている。しかし、文章のよみやすさに反して、そこでの主張は非常に示唆に富み、奥が深い。
本書の冒頭で医療と法はわかりあえないのかという疑問を投げかける著者の核心は、法は医療従事者に医療倫理を獲得するよう押し付けるべきではない、ということにあると思われる。すなわち、本来、医療従事者は、自ら獲得した医療倫理に従って医療(治療)に当たるべきであり、それにもかかわらず、ジレンマが生じたときにはじめて、法は一定の解答を提示して、医療従事者の医行為を(心理的にも)補助するにすぎないのである。本書では、このような観点から、現在の医療が抱える諸問題が「法的」観点から検討されると同時に、従来自明とされてきた医療問題に法が関わる根拠や限界などへの疑問も示されている。
また、本書で示される著者の問題提起は、医療という特殊な問題を素材としながらも、法は個人や社会の利益のために何をすべきかという法そのもの存在意義・役割を問うことでもある。それゆえ、本書は、法学初学者やロースクール生にも一読をお勧めしたい。
現在、医療をめぐっては、本書の副題にもなっている救急車と正義(トリアージ)の是非など、検討すべき課題が山積している。それゆえ、本書は、法との関係のみならず、医療問題を学ぶ際の入門書としても最適な良書といえよう。