江戸時代末期の1840年前後に出版された大古典です。作者は塩沢で質屋を営み、縮みの仲買人としても活動しながら、本書を書きました。20代から書き始めて出版を企図し、晩年にようやく前半の第一部が出版され、後半第二部の出版は没後でした。
内容は、豪雪の下での生活の苦悩と特殊性を描きます。雪は1年の半分の生活を大幅に支配し妨害する要素と世の人々に知らしめたいのが基本の狙いです。
大量のエピソードが素晴らしいので、例をいくつか。冒頭の雪の結晶の図。江戸時代の作品に顕微鏡の図を予想しないので驚嘆。痛切な実例は、若夫婦が生後半年の赤子を里の親に見せるべく少し離れた土地に向かう途中で、吹雪で夫婦は死亡し、赤子だけが生き残る描写です。赤子が助かる点、かすかな救いですが。もう一つは、商人と農夫が同道して雪道を行く途中で吹雪に遭い、農夫の持つ握飯二つを商人が600文で購入して商人は助かり、農夫は死ぬ話です。600文は今なら1万5千円で、生命が助かったので賢いお金の使い方だったと、商人に言わせています。雪の中の洪水は、著者の実体験で迫力に富んでいます。
ユーモラスなエピソード:農夫が20歳頃に崖から雪の谷に滑り落ち、近くの洞窟で大きな熊と50日間同居し助けられた話。山中の異獣の話は、人間よりやや大きな毛むくじゃらな大きなサルようの動物が、人間を攻撃するのでなく理解して助ける話。
真剣な記述と提案:縮み(麻の布の高級品)の詳しい解説。天然ガス噴出に関係する事柄、鮭にまつわる話を詳しく述べて、最後に養殖の可能性を提案しています。
秋山郷:新潟県と長野県の県境で現在も秘境ですが、そこを1週間旅して記述しています。
本書は文語文ながら、十分に読めます。著者はもちろんですが、この作品をベストセラーにした江戸庶民の文化レベルの高さにも敬服します。
現代文に訳した本の入手が困難で、自分で現代文に翻訳を試みて、完成したら電子ファイルとして公開を考えています。
北越雪譜 (ワイド版岩波文庫)北越雪譜 (岩波文庫 黄 226-1)