戦国時代に関東を席巻した後北条氏の、その武を担う闘将として名高い北条綱成を題材とした作品です。
その武勇に比して残された資料の少ない綱成の、73年にも渡る戦いを描いています。
北条綱成と言えば「地黄八幡」の旗が有名で、戦場でこの旗が翻ったのを見た敵将は戦わずして撤退したとも言われています。
常に北条軍の先鋒を任された綱成の、その存在だけで相手を萎縮させるだけの力量を誇っていたことの証左と言ってよいでしょう。
そんな綱成ですが、意外にも出自からして定かではありません。
今川氏の家臣であった福島正成の子で、花倉の乱で今川義元と敵対した福島一族は討滅され、その際に小田原に落ち延びたというのが通説となっています。
しかし義元に味方した後北条氏を頼ったというのも筋が通りませんし、花倉の乱の発端となった今川氏輝と彦五郎の同日変死に後北条氏が荷担しており、そのこともあり玄広恵探一派であった福島氏の一族を受け入れたとの説もあるようです。
この曖昧な出自の綱成を、これこそが作家の腕の揮いどころと、見事につじつまの合った一生に仕上げています。
ややご都合主義なところもありますし、史実に反する記述もありますが、単なる伝記にとどまらない小説となっているのは作者の筆力の成す技でしょう。
一歩間違えば地味な武将の地味な伝記に終わりかねない題材を、若年期の不遇や壮年期の躍動、そして老年期の落ち着きと、メリハリのある人生に書き上げています。
小田原の役まで綱成が存命だったら、そんな思いを馳せたくなるような、見事な綱成の生き様を見せられたような気がします。