本作品は,北条氏康の人生を史実に基づき比較的淡々と描いた作品である.だが,その淡々としたスタンスがかえって良い.
氏康は戦国時代に咲いた華の一人であるにもかかわらず,その評価は未だに定まっているとは言い難い.その理由の一つには,氏康の身近に多くの“偉人”がいたため,常に彼らとの比較を余儀なくされる立場にあるからであろう.領土を近接した武田信玄,上杉謙信,今川義元はもちろんのこと,自身の血族である関東北条家の初代早雲,二代目氏綱は,いずれも一時代を築いた大人物であった.三代目の氏康を論じる際には,こういった面々との比較で語られることがほとんどである.
本作品は史実に忠実でありながらも,理屈っぽくなくさらりと読める.かつ,小説としての面白さも感じる.北条氏康を描いた書籍は多々購読したが,小説・歴史書を含め本作品のようなスタンスのものは意外に数少ないように思う.評価というものは,まずは北条氏康という人物が歩んだ人生そのものを知ったうえで,次の段階に行うものである.そういった観点から,本作品の存在意義は大きいと判断した.