インターネットの普及等により情報流通の進展が著しい今日の中国ですが、リアルタイムでの政治状況の正確な把握は、それでも相当に困難です。改革開放前の時代に「竹のカーテン」の内奥を透視しようとすれば、その苦労は並大抵のものではなかった筈です。また、当時の日本における社会主義礼賛の風潮の下、中国の政治的激動に関する是々非々の情報発信には、様々な問題が付き纏ったようです。
そうした中、著者の中嶋教授は、アカデミックな中国観察者として多様なソースと中国社会に対する該博な知見を駆使し、文革の発動から終焉に至るまでの現実の動向を把握・咀嚼し、その歴史的・政治的意義をリアルタイムで堂々と発信し続けてきました。本書は、そうした十余年に亘る文革分析の軌跡であり、中国に対する洞察に関する教授の自信と勇気を示すものと言えます。
文革の10年間は、多くの人々を傷つけ、生活と発展を阻害したばかりでなく、社会意識や人間の心にも取り返しのつかない大きな傷跡を残すこととなりました。文革のそうした負の側面を指摘し続けてきた教授ですが、本書の結びでは「中国よ、今こそ文化大革命を」という論文の中で、ポスト毛沢東時代における中国の政治的・社会的な弛緩傾向に対して警鐘を鳴らしています。80年代初頭の文章ですが、恰も21世紀の中国が直面している問題を予見するかの如き観があります。
表層的な事象の観察を超え、歴史的・文化的なアプローチを通じて中国の本質に迫り、その「密教的」な現実と動向を洞察していくのは、日本だけが能くするところではないでしょうか。本書を読んで、そうした思いに気を強くする心地がしました。