1989年の天安門事件は、当時高校生だった私にも大変ショックな出来事でした。大して年の変わらぬ隣国の若者が、戦車に文字通り立ち向かってまで為政者に求めたものは、報道の自由等、民主主義国では当たり前の権利ばかりだったからです。
水木楊の「北京炎上」(文芸春秋)は、近未来(201x年)に再び天安門で民主化運動が起き、中国共産党による独裁体制が崩壊する様子を描いた小説です。1989年の事件との違いとして本作品では、都市と農村の間の経済格差の拡大、IT技術(携帯電話とインターネット)の発達と浸透、(一部)人民解放軍の民主化運動への同調等が挙げられています。
「どんでん返し」もなく話の展開自身は比較的単純で、小説としてのエンターテイメント性は正直高くないと思います。しかし、共産主義体制を堅持したまま貪欲に経済開放を進める現在の中国の姿に少しでも触れている人ならば、本作品で描かれているシナリオは「あり得るな」と唸らされるでしょう。
公害や食品の安全問題等、中国の急激な経済成長の負の部分が顕在化する昨今、本作品は一読の価値は十分あると思います。