高校日本史教科書の「近代化」の項目に必ずといっていいほど掲載されている「官営八幡製鐵所」(現:新日本製鐵株式会社八幡製鐵所)。日本の近代化を語る上では外せない場所であり、同時に、製鉄関連の産業が北部九州に果たした役割は果てしなく大きく、現在でも近代化遺産としてその足跡をたどることができるものも数多くある。しかしながら、多くの近代化遺産は、所有者の意向やさまざまな災害により常に解体の危機にさらされているのも現状である。
本書では、執筆者の一人である市原猛志氏の膨大かつ詳細な近代化遺産調査を刊行発案の発端として、北九州市内とその周辺の産業遺産・近代化遺産60箇所の見どころと歴史をカラー写真付きで紹介。巻末には紹介しきれなかった産業遺産320箇所の一覧表がつくという労作。
執筆者には、九州国際大の清水憲一氏を筆頭に、地域を研究する若手からベテランの気鋭研究者が揃い、「地域発」の産業遺産の紹介という視点が痛快である。
遺産60箇所の紹介は、見どころと歴史の記述バランスが取れており、写真も適切で理解しやすい。
さらに「補論」として10本の論文が並び、人々の生活文化、保存活用の取り組みなどを扱っており、どれも良質の論文で圧巻である。特に、清水憲一氏によるマクロ的な産業発展と都市形成の論文、時里奉明氏による製鐵所社宅と労働者階層の論文、山本理佳氏による起業祭の歴史を掘り起こした論文および1901高炉保存経緯をつづった論文は興味深い。
ただし、ボリューム満点で、B5版260ページとやや大きく重い、巻頭に地図があるが紙面の大きさと縮尺との兼ね合いのため、紹介ページに埋もれてしまっており、これを持って気軽に北九州を街歩き...ということをしにくいのが難点。もう少し地図を折込で大判にし、簡略化したバージョンや、「補論」の論文集を増補して総合的に北九州の近代化遺産を網羅したバージョンが姉妹版として出れば、完全なものとなりそうである。別バージョンや続編に期待したい。