社会主義者として出発しながら、右翼、青年将校と深く関わるようになった北一輝。彼は初期の思想を捨てたように見えるが、後年の『日本改造法案大綱』からも社会主義者としての考えは失われていない。そのために北一輝は極めて複雑な思想の持ち主として現れ、彼に迫ろうとする者を困惑させる。その彼に「ロマン主義者」という見事な評価を与えたのが、本書である。徹底した個人主義者として強大な権力を持つ天皇に嫉妬し、その天皇に取って代わって権力を握ろうとした結果が二・二六事件なのだと言う著者の指摘は、彼の矛盾するかのような生涯をうまく表現していると言える。抽象的だとの非難はあろうが、大川周明に「魔王」と言わしめた彼の評価にこれより適切な言葉は浮かばない。
処女作『国体論及び純正社会主義』の発禁処分を受け、暗殺へとひた走ろうとする可能性に気づき、一度は革命への夢をあきらめる。しかし、辛亥革命へ関わる中であきらめかけた革命への夢に目覚め、日本に帰国する。そしてクーデターという形での革命の実現に向けて動き出す。こうした心理過程を解き明かした本書は、実に読み応えのあるものである。
ただ、本書における「超国家主義」は、丸山真男流の超国家主義(極端な国家主義)ではなく、橋川文三流の超国家主義(EUの構想に見られるようなもの)なので、読み間違えないように注意して頂きたい。