椎名氏が北東北(青森・岩手・秋田)を旅しながら撮影した写真に短い文章を添えた本である.
最近は,政治や社会の暗部をテーマにしたような本ばかり読んでいたが,久しぶりに“詩情”ある本を読んだような気がする.
たまにはこういう本も読まないと「ミイラ取りがミイラになる」ように,自分の感性もひからびてしまう.
椎名氏の文章はかつて「昭和軽薄体」と揶揄されたこともあったが,文体はどうあれ,紙背から読み取れる椎名氏の感性が私は好きである.
その感性とは例えば,
『野辺の花が荒れ野に吹く風にはげしく揺れているときなどは,そこに居合わせたことに感謝する.
また今年も,たくさんの若い花の生命に触れることができた,という喜びに満足する。
そして今年もそういう旅ができたことを感謝するのである.』(p167)と感じる感性であり,
『ひとけのまったくない荒々しい北の海岸を今自分は一人で独占していた.それだけでも贅沢なことであった.』(p229)と感じる感性である.
美味しいものを食べ歩いて温泉に入るというだけの旅番組,ガイドブックに載っているような観光地を騒々しく巡るだけの旅,軽薄とはそういうものをいうのだ.