本書は、北海道の6つの「無人駅」を起点として、その周辺地域における様々な問題・現実について、丹念な取材をもとに掘り下げた労作である。
そして、それぞれの地域において、主題が設定されており、それらは、農業、漁業、環境・自然保護、観光業、地方自治・地域振興といったものであり、「地域」と「主題」が縦軸と横軸を構成している。
それぞれの主題のひとつひとつが、現代日本において極めて重要な課題であるが、著者は、それぞれの主題について、無前提的に自らの立場を設定せず、あくまでもそれぞれの地域が抱える「現実」の姿を明らかにしていく。そして、その「現実」の姿とは、著者が折に触れて述べるように「全か無かで割り切れない」複雑なものであるのだ。
本書は、それぞれの「主題」に関心のある読者にとって有益であることはもちろんであるが、やはり、「北海道」としての独自の歴史的背景が大いに含まれている点においても、現代の北海道を知る上での重要な著作のひとつであることは、改めて指摘できるだろう。評者としては、やはり、そこには近代以降の政治主導的な開発といった背景、それと密接に関連する「移住」というものの持つ意味(例えば、新十津川町と「母村」の奈良県・十津川村との関係など)を改めて確認させられた。
なお、著者自身が、本書において「誰もが安心するおなじみの『北海道』」(774頁)像を描くことから脱却しようとしたと述べているように、そうした前提のある思考様式を可能な限り排除し、あくまでも目の前の圧倒的な「現実」に対峙しようとする著者の「苦悩」が本書において節々に反映されているともいえる。評者としては、こうした自らの自戒を込めた著者の誠実な姿勢と、それに裏打ちされた労力を大いに評価したい。