今見返してみれば「1998時代」「2002遺言」とシリーズのクライマックスへ向かう過渡期的な作品でったことは確か、他のスペシャル編に比べても盛り上がりの欠ける一編であることもまた確かである、にもかかわらず個人的にはシリーズ中でもっとも愛着があるのはエピソードの一つが個人的な追憶と重なるからだけではなく、やはり宮沢りえの魅力が最高に活かされているからだとおもう、加えてシリーズに顕著なまことに惨めなシーンが今回は描かれていないからであることにも気付いた、本作は全体のトーンがとても明るい、スキャンダル後の90年台前半に少々くすぶっていた宮沢りえを女優として再生させた作品とも評価できるでしょう、
前編の最後、蛍が純のアパートに現れてから夜行列車に乗り込むまで、特に新得駅前に駐車した車内における純と蛍のシーンはシリーズ中で最高に満ち足りた気分にさせてくれる、吉岡秀隆と中島朋子、この二人の役者でなければ絶対にかもし出せない絵もいわれぬ情緒が絶妙の状況(駆け落ちする妹を送る兄)で描写されているとおもう、個人的には「駅」の高倉健と倍賞智恵子の居酒屋シーンに匹敵する名場面、
妹の駆け落ち相手に対する苛立ちを「ぶん殴ってやりたいな」と口にする純に対して蛍は「負けちゃうわよ」とたった一言返す、愛するものへの全幅の信頼と依存をワン・カットで表現したこの場面こそシリーズ最高の名場面ともいえるし、女優中島朋子畢生の名演技であるとも思う、
新しい恋愛に明るく弾むシュウに対して、妻帯者と駆け落ちする蛍のやつれ具合、とりわけ本作で初めて画面に蛍が登場する純のアパート前の蛍の姿、を描いた本作はメロドラマとしても実に秀逸なものだとおもう、駆け落ち相手と正吉の彼女シンディが存在が暗示されるだけで実際に画面に登場しないのも実に心憎い演出だとおもう(小津映画・秋刀魚の味などで主人公の結婚相手が姿を見せないことを思い出します)、
続く2作品への布石として重要なのが純と正吉の友情が見る側の想像を超えて分かち難いものであることを正面から描いたこと、
蛍が駆け落ちした落石(おちいし)の冬の海の荒々しさは富良野岳の量感のある安定と対極にある不安定さの描写として素晴らしいとおもいます、富良野に住み安心して暮らすことと真逆を選んだ蛍という意味を暗示しているわけです、