一読して気になるのは余白の多さ。ページ数をかさ上げしている印象を受ける。これ、実際は新書で収まる文字量だろう。そして必要なのかどうなのか良く分からないカラー印刷が挟まって1,600円。やや高いと思うが、この類の本を手に取る向学心のある読者は、その程度の投資なら厭わないという判断によるものなのだろう。おそらくテーマ、価格、ページ数といった、本のスペックが戦略的に固められた上で、中身は後からあてがわれたのではないか。実に巧妙にマーケティングされたプロダクトである。
本書において、自分の頭で物を考えない「教えて君」に対して警告を発している著者であるが、現在の「勝間ブーム」と呼ばれているものが、幾百もの凡庸な「教えて君」読者に支えられていることもまた事実だろう。というわけで私も「教えて君」として虚心坦懐に本書に臨んだ。
内容はそんなに悪くない。使えるかもしれない。そもそも私がこの本を手に取った動機というのが、自分の会社に時々やって来て何やら調子のいい紙芝居(プレゼン)を行い、後から高額な請求書を送付してくるコンサルタントという名の連中の、テクニックや発想法を網羅的に解説してくれる本を探していたからだ。本書は良い意味、身も蓋もない手際の良さであっけらかんとそれを達成しており、私の「教えて君」ニーズを充分に満たしてくれた。
しかし、だ。そういった思考ツールの解説で終わっていれば良書であったのに、著者は後半のページを埋めるネタに困ったのであろうか、何やら奇妙な人生訓のようなものを語り始める。おいおい何やら雲行きが怪しいぞと思っていた矢先に飛び込んできた「健全な精神と肉体が、健全な発想を生む」というフレーズ。私は即座に本をたたんでゴミ箱に放り投げたい衝動に駆られた。これが仕組まれた悪い冗談であり、ページのかさ上げによって適度な質量を獲得した本書をゴミ箱に向けてスローイングするという、ダイナミックな身体運動に読者を駆り立てることで、その脳の活性化を図るという意図であれば分からぬでもない。だが実際は、著者は何の疑念もなく「健全」を説き、それを読者に求めてくる。
30年前の校長先生のような話をここで聞かされるとは、教えて君もさすがに戸惑う。著者は、例えばニーチェや太宰に対して何を語るのだろう。健全な精神に基づいた発想でないから価値が無いとでも言うのだろうか。やや飛躍になるが、著者は世の中を勝間和代だらけにしたいのだろうか。私は、そんな世の中では困る。