武豊が登場する前、日本を代表するトップジョッキーだった岡部さんだが、昨年引退してから、調教師にもならず、主に執筆活動や評論家活動をしながら悠々自適の毎日を過ごしているようだ。今回の著作では、彼の経験の回顧と、それを通じて体得した成功の要因について述べている。騎手が他のプロフェッショナルと大きく異なる点は、まずチャンスを得るのが大変だということ。まず調教師や馬主から信頼されないと騎乗機会が増えず、さらに勝つチャンスの大きいよい馬がまわってこない。鶏卵の関係だが、こうやって好循環を得た一握りの騎手となるための努力は並大抵のものではなかったはず。肝心の、実際のレースで勝つ秘訣であるが、岡部さんの言葉では、「他の騎手よりも多くミスをしないこと」とすごくシンプルである。武豊は、そのミスが少なく、かつ、他の騎手のミスを見逃さず、すかさずそれに乗じることができる点で圧倒的に強いのだという。そして、レースは刻々と状況が変わるので、その状況変化に合わせて対応できる柔軟性こそが自分のミスを減らし、他人のミスに乗じるための必要能力であり、それが「勝負勘」ということなのだろう。印象的だったのは、馬も騎手もある程度長い目で育成すべきという意見。早熟型ですぐ結果を出すことが尊ばれるようになっていることを憂い、晩成型がきちんと育ちにくくなっているが、そうした仕組みは競馬界に限らず、世の中全体として考えなければいけないことである。