全体で900ページ余。膨大な注釈を除く本文部分でも757ページもあります。通常の単行本の2、3倍の分量で、読み終えるのに約1ヶ月もかかってしまいました。
それだけ勝研究に緻密に取り組んだ勝海舟の決定本です。本人が残したものから、ゆかりの人たちの手紙、日記などを渉猟し、多面的・重層的に検証し、客観的に正確さが担保された部分をもとに書き綴っていく。俗説や主観的な記述は徹底的に排されています。著者の透徹した視点が見事です。松浦氏畢生の大作といえましょう。
さらにいえば、読み進むうちに勝の透徹した視点にも魅了されていきます。幕末の幕府の中でこれだけ先を見据えることができた人は海舟だけでした。他の幕閣が明日のことも見通せないのに、彼は20年先を読んでいた。脱亜入欧の掛け声とともに日本は近代化とともに韓国、中国への侵略戦争に突入していきますが、彼がそうした植民地主義的な視点を早くから放棄し、「アジア同盟」論とでも呼ぶべき別の近代化の選択肢を有していたことは驚嘆に値します。彼を評する伊藤博文の「勝さんはあまりに飄然としていて」という言い回しが面白い。であるがゆえに、官職にはあまり恵まれませんでした。
一点、気になったのは「けれども」という逆接詞の多用です。「が」あるいは「だが」のほうが松浦さんの文章には適切に思います。「けれども」は話し言葉以外にはあまり使わないほうがいいと思いました。