舞台は第2次世界大戦前後のアメリカだが、戦争は彼にとって「せいぜいぼんやりとした現実」でしかない。行ったこともない場所で会ったこともない人間たちがどれだけ殺し合おうと、目の前の酒と女、競馬の結果の方が重要だし、毛じらみの方が大きな悩みの種なのだ。チナスキーの生き方は、一見場当たり的で厳しい現実から逃避している。だが、「自分探し」だとか「生きる目的」などというどこか言い訳めいた言葉など軽く吹き飛ばしてしまうほど骨太で強烈である。
魅力をさらに増すのはその文体である。殴り書きのような荒っぽさの中に、せつなさを絶妙にからめる彼の文体は読む者を否応なくひきつける。ストリートで生まれ、終生ストリートで書き続けたブコウスキーの作品の魅力を、読者は生々しく感じとることができるだろう。(深澤晴彦) --このテキストは、絶版本またはこのタイトルには設定されていない版型に関連付けられています。
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おそらくブコウスキーの描くチナスキーの「反抗」と、ホールデンのそれとが決定的に違うのは、ホールデンには入院できる経済的基盤があったのにたいし、チナスキーのほう自分の手で食べて行かねばならなかった点である。たとえば『勝手に生きろ!』は就職課にとっては発禁処分の本である。あいにく正確な数を記録していないけれど(というより記録できないほど多いんだけれど)、たぶん3ページに一回ぐらいの割でチナスキーは失業と転職をしてるのではないか。たしかにホールデンみたいに社会に反抗して討ち死にするのも格好いいけれど、だけど生きているかぎりは当然のことながら食べなきゃいけないんだよ! だとしたら社会の「俗情」と「結託」しないで(日本の純文学版ブコウスキーとも言うべき大西巨人の専売特許)、なおかつ「俗世」で生きていくにはどうするかというのが、ボクの読み取ったブコウスキー文学の最大のメッセージである。
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