"将棋プロ棋士と名翻訳家"という不思議な組合せですが、なかなか面白い対談集でした。羽生氏が一局における"一手の重み"について語るとき、柳瀬氏は翻訳における"一語の重み"を想起するといった具合で、ユニークな対話がどんどん進んでいきます。
本書の内容を一言でまとめよと言われたら「着眼大局、着手小局」(Think globally, Act locally)となりましょうか。つまり「物事を大きな視点から見て、小さなことから実践する」ということです。将棋の"指し手"を選択する場面では盤面全体・手の流れを意識することが重要ですが、それは翻訳の"訳語"の選択において文脈(context)を意識することの重要性と相通じるわけです。「着眼大局、着手小局」の話は何も将棋や翻訳の世界に限る話ではなく、実社会でも十分通じる話ですね。(大局を捉える"センス"と小局を検討する"ロジック"の両方が大事なわけです)
それにしても羽生氏の言葉と態度には改めて恐れ入りました。渡辺竜王との"死闘"(→惜しくも永世竜王のタイトルを逃す)の次の日に柳瀬氏との対談に臨まれ、相変わらずの"羽生節"を炸裂されておられます。(「天才」「努力」を語る処は痛快です!やっぱり「
"やる気"より"その気"」だな、と思いました)この羽生氏のメンタリティ(=頭の切替の良さ)が「勝ち続ける力」の重要な一要素じゃないかな、とも思いました。
本書と共に「
シリコンバレーから将棋を観る -羽生善治と現代」も読んでみると面白いかもしれません。現代将棋の過激さとプロ棋士の横顔がよく分かります。