本書は、生物学者である著者が生命、自然、環境などすべてのものは間断なく流れながら絶妙なバランスをとっているという切り口から著したエッセイ集である。
それは、生物は機械のような部品の集合体ではなく、いくら人間が制御しようとしても手の届かないところにあるという著者のあきらめに似た考えである。
たとえば、記憶はビデオテープのように取り出せるようなものではなく、記憶物質というようなものも存在していないことを明らかにしていく。
また、生命を形づくっているたんぱく質は、今や試験管の中で全て合成できるが、それだけでは生命はつくることはできない。
生命を形作る細胞は時間とともに全て新しいものと置き換えられ、「生きている」とは、時間とともに変化していく中での微妙なバランスの上に成り立っているもの=動的な平衡によって、エントロピー増大の法則と折り合いをつけている。
自然に逆らわず、十分な栄養とエネルギーをとり、エイジングと共存することこそ最も賢いあり方であるという著者の思いは、生命を探求してきた著者だからこそ言える重い言葉である。
さらにミートホープの食肉偽装事件の社長のコメントをとりあげ、今の我が国の消費者のひたすら安さを求める姿勢を批判したり、食品添加物の問題、遺伝子組み換え作物の問題、ダイエットやコラーゲンにも触れるなど現代社会の風潮にまで著者の考えを切り込んだ意欲作である。