ユクスキュルの『生物から見た世界』を読み始めたところ、私には難しかったのでまずは肩慣らしにと思い、本書を一読しました。素晴らしい一書です。生物学的多元主義とでも云うのでしょうか、「環世界」論の基本的な考え方が大変よく理解できました。即ち、人間を含む生物は、客観的な「環境」において生きるというよりは寧ろその生物種なりの特性に従い、自らがイリュージョン能力によって切り取った主観的な「環世界」において生きているのだということです。
中でも、人間が知覚できないことを他の生物がやすやすと成し遂げてしまう驚異の挿話、例えば、紫外線が見えるモンシロチョウのオスは紫外線を反射する裏翅を持った固体をメスであると識別する話(80頁、103頁)や昆虫が醤油とソースを触れただけで見分ける接触科学感覚の話(132頁)などは全て大変興味深く、人間の生物種としての限定存在性に改めて蒙を啓かれました。
「ひとつの環境というものは存在しない・・・ それぞれの動物の主体が構築している世界があるだけであって、この環世界は動物の種によってさまざまに異なっているのである。」(131頁)
「それぞれの動物主体は、自分たちの世界を構築しないでは生きていけないのである。」(137頁)
叙述は極めて平易にして明快であり、一つのことが何回も丁寧に説明されていることから、筆者の考えが頭にすっと入ってきます。正に、科学啓蒙書の手本と云えるでしょう。若い頃にこういう本を読んでおくと、ものの観方や考え方がぐっと広がってくるように思います。