自死の理由は「うつ病の悪化」などではない。むしろ、本人が何年も考えに考え抜いた末の、極めて周到な計画に基づくものであったことが、この本を読んでも判る。時代を誰よりも鋭敏に感じとる彼だからこそ、こんなチープな時代には、彼の居場所がなかったのだ。音楽が素晴らしかった時代も、もう取り戻せないのかもしれない。我々は、とても重い現実を突きつけられてしまった。
彼の人生で最も光り輝いていたのは、やはり安井かずみ(ZUZU)さんとの日々だろう。才能ある作曲家と作詞家、二人三脚で自分たちがやりたい仕事だけを選び、優れた作品を残したのは、この時代(1982-1996)だ。この天才はミューズ(音楽の女神)を必要としたし、安井さんは見事なミューズであった。それは例えば、名曲「アメリカン・バー」(ベル・エキセントリック収録)を聴くだけでも判る。著作もしかり。「ワーキングカップル事情」「優雅の条件」「女の素敵な生き方の選択」「NYレストラン狂時代」「ありがとう!愛 − ガン、告知、夫婦愛、信仰」などをいま読み直せば、日本にもこんなステキなカップルがいたのかと本当に感動するし、教えられることが多い。こんな世知辛い時代だからこそ、微笑み、優雅さ、上質さを回復し、一度限りの人生をエレガントに、ロマンティックに愉しむのだと諭される。
しかし今はもう、そのふたりともこの世にいない。キッチン&ベッド、書斎、スタジオのあった六本木の自宅も、主(あるじ)を失ってしまった。そのことがとても残念で、とても哀しい。僕は未だあの日のショックから立ち直れないでいるが、今はせめてこう思いたい。このふたりに、こんなに幸せでステキな日々があったのだと。