広井良典・千葉大学教授は、私が着目している学者の一人だ。広井教授は、社会保障論や福祉社会論、コミュニティ論や環境論など、幅の広い学究活動を行っているが、この「創造的福祉社会(又は創造的定常経済システム)とは何か」を論じた著書は、『
持続可能な福祉社会』(ちくま新書,2006年)や『
コミュニティを問い直す』(同,2009年)などとは違って、人類史において「第三の定常化の時代」を迎えた私たちの“新たな価値(政策)原理”を模索、考察した著作である。従って、何か「福祉」に関する“具体的な提案・提言”を満載した書物ではない。むしろ、「福祉(と環境と経済)」というものに対する“社会哲学的な探求の書”あるいは“問題提起の書”といった方が本書の性格を表しているかもしれない。
ここで先ず、当書の構成を通観すれば、一点目は「時間軸/歴史軸」に関するもので、私たちの“時代認識”などを、二点目は「空間軸」でグローバル化とローカル化の関係性などを、最後に「原理軸」で人間と社会の関係性などを、それぞれ問うている。さらに、本書に通底するのが「定常型社会」というキーワードである。「
定常型社会」とは、著者の措定によれば「経済成長を絶対的な目標としなくても十分な『豊かさ』が実現されていく社会」のことである。著者は、人類の歴史を、大きく「狩猟採取社会」「農耕社会」及び「産業化(工業化)社会」の三つのサイクルに類別し、最初の「狩猟採取社会」、次に「農耕社会」のそれぞれが「成熟化」「定常化」へと向かう中で、ある“出来事”が生起した、とする。
それが約5万年前の「心(文化)のビッグバン」であり、約2500年前に生じた「枢軸革命(ヤスパース)/精神革命(伊東俊太郎)」と呼ばれる現象であった。そして、「第三の定常化の時代」に入りつつある今日、「心のビッグバン」や「枢軸革命/精神革命」と同様の「人間の活動や社会の物質的・量的な拡大から内的・質的な深化・発展へ」転回する新たな「価値原理」などが今、私たちに求められている、というのが著者の意想だ。著者は「コミュニティ」という概念を結節点として、「資本主義と社会主義とエコロジー」の融合又は「福祉と環境と経済」=「平等と持続可能性と効率性」の相乗的関係を訴えてきた。それらが、新しい「定常型社会」における「価値原理」の基部となることを、私は大いに期待したい。