本書は、「創造」を天才の占有物、発明家の名人芸の座から解放し、一般人のためにマニュアル化するという意欲的な試みの成果である。
第1章は「こうありたい」ということを言葉にする「要件定義」の重要性・方法・例を示し、明治以来の日本は製品と一緒に要求定義も輸入してしまったので、要件定義が定着していないと解説している。
第2章は要求定義した内容を実現するためのテクニックを解説している(私はこの章が一番面白かった)。この中心はTRIZ(トゥリーズ)である。TRIZとは「発明的問題解決理論」という意味のロシア語の頭文字をならべたものであるが、アルトシューラーという研究者が旧ソ連の特許を解析して、発明者の頭の動きの共通性を抽出したものである。TRIZは弟子が米国に渡ったことによって広まったのである。創造のテクニックとは、例えば、挿入付加・分割(機能分離・並列化・オフライン化・副次排除を含む)・変形・交換・流線・合体・変換・電磁場・相変化・表面改質・独立化・冗長化等である。実例としてウイスキーボンボンの作成方法が挙げられているが、これはウィスキーと水と混ぜて氷結させ(「相変化!」)、表面に溶けたチョコレートをかぶせるのである。
第3章は複数の要求の干渉(バッティング)の処理についての考察である。
第4章は米国の得意なモジュラー化(独立した要素に分解して作成する)と日本の得意なインテグレイティッド(機能統合)をどう考えるかを論じており、今後の展開を提案している。
文章は時として無邪気な自慢話に閉口することもあるが、総じてユーモラスであり一気に読めた。(なお本質的ではないが、著者は学習塾に関しては否定的なようであるが、私の子供には、レベルのあった生徒にプロの熱心な先生が教えてくれるので、学習塾は好評であったので、ここは著者と意見が違うなと思った。)
本書は、著者が機械工学科の授業で実践した内容をベースにしており、また「失敗学」も踏まえている。機械工学以外の分野の人にとっても、自分の専門分野の創造について考えるために参考になる内容である。