「人間の本性について」「社会生物学」で、進化生物学と人間との関わりを問う道筋を切り開き、「生命の多様性」で生物多様性概念を世に広め、自伝「ナチュラリスト」で最高の生物学者はいつでも子供のような博物学的興味から誕生することを教えてくれた、世界を代表する生物学者ウィルソン。そのウィルソンが、これまでになくハンディで読みやすい進化生物学的視点で、生物の多様性の大切さ、人間と生き物のにぎわいとの関わりの必然を説いたのがこの本だ。ウィルソン生物学の入門書とも言っていい、間口は広く、敷居が低いが、奥の深い傑作。なぜか。それは、アメリカで今も根強く一般社会にある、進化論を否定するキリスト教原理主義に基づく「創造論」や「インテリジェントデザイン」を推す、「良心的で信心深いが、科学の知見に欠ける」普通のアメリカ人に向けて書かれたものであるから。ゆえに、本書のタイトルは、聖書を想起させる「創造」というタイトルが冠されている。この点に関しては、ドーキンスが「神は妄想である」、グールドが「神と科学は共存できるか」を出しており、世界トップの進化生物学者全員が、キリスト教と進化論との対峙について、大きなな論陣を張らざるを得ない英米の文化事情、社会事情が垣間見えて、それもまた興味深い。併読するとドーキンスの否定、グールドの戸惑い、ウィルソンの共存、という立ち位置の違いが見えて、これまた面白い。なお、日本の読者のために書かれた、ウィルソン「人間の本性について」、ドーキンス「利己的な遺伝子」の訳者として進化生態学をいち早く日本に紹介し、一方で、三浦半島小網代の自然の保全や、鶴見川流域の保全活動で環境問題の最前線にも立っている岸由二慶応大学教授の、かゆいところに手の届く解説がありがたい。生物多様性会議が名古屋で開かれる今年、生き物と人間のかかわりを俯瞰し、一方でディテール細かく、蟻の目で観察できるようになるため、本書は最善の一冊になると思う。