21世紀末、現在のニュージーランドとおぼしき場所に位置する島国プラトン共和国は、世界から隔絶した階級社会を作り上げていた。そこに暮らす少女アナックスはアカデミー入学のため、4時間に及ぶ口頭試問にのぞむ。彼女がそこで試験官たちに述べるのは、共和国創成期に生きたアダム・フォードという男の最晩年のある出来事だ。
口頭試問でやがて明らかになるのは、秘匿されてきた共和国の歴史だった…。
ニュージーランドの高校教師でもある作者ベケットの8番目の小説とのこと。
本書カバーのそでの紹介文ではポスト児童書およびヤングアダルト小説賞も受賞した作品ということが殊更強調され、「最後の数ページ、驚天動地の結末が全世界で話題を呼んだ」とあります。
読了後、この売り文句の数々を読み返して感じたのは、確かにこれはかなり若い読者にしか驚きを与えない小説なのではないかということです。
アンドロイドのアートと人間アダムとの間には古代ギリシア哲学の弁証法的な対話が展開しますが、内容は十分な深まりを見せません。
アダムが同僚を殺めてまで救った少女をめぐる、隔離政策による共和国全体の利益と個人の生命の拮抗という問題も、頷ける形で議論が進んでいくようには見えません。その他にも人間とは、思考とは、何かというテーマを見つめようとしているようですが、多くの読者の納得が得られる展開になっているのかは疑問が残ります。
結末は往年のテレビシリーズ『トワイライト・ゾーン』でよく見かける類いのもので、新鮮味がありません。この230頁余りの中編小説の91頁目8行目に「だったらダウンロードすればいいじゃない」という言葉が出てくるところで、私にはオチが透けて見えました。
結末につながるヒントを登場させるには少々早すぎるのではないでしょうか。
もう少し紙数を削って短編に仕上げて、アンソロジーの一編でもよかったのではないかという気がします。