6枚目のオリジナルアルバムである。1曲目に位置し、先行リリースのシングルCD「青い鳥」の出来上がりは、他の収録作品と比較して今ひとつに思えた。一時期取り沙汰された喉の不調とはまた異なり、発声そのものに力が入ってない状態に感じられた。残念だが、明らかにベストコンディションではない。恒常的に体調を整えレコーディングに臨む困難さを如実に物語っている。
それでも活動復帰直後のような不安定な精神状態にはないと、諸々の鬼束さんの発言から伺える。これは音楽活動と向き合う上での強みだろう。この段階においてのセルフプロデュースであり、タイミングとしては妥当かと思う。こうした過程を経て完成された[剣と楓]は、一つの方向性に固く括られたコンセプトとは真逆にある。実に振り幅が広い。歌唱方法、ジャンル、曲調……各作品により全く異なっている。これは復帰以後、特にアルバム[DOROTHY]からの流れではないかと思う。一部を挙げれば「陽炎」、「X」、「ストーリーテラー」、「STEAL THIS HEART」と多様な展開に魅せられてしまう。そして今回のアルバムへ。8曲目の「NEW AGE STRANGER」を象徴的な存在として据え、ここ数年間でより顕著になった音楽性なのだ。「このぐちゃぐちゃな感じは、三十歳になった今じゃないと作れなかったと思う」という著書の一文が興味深い。そのままに理解すればいいと思う。ただし、活動休止以前の鬼束さんへ強く憧れ理想を抱くファンである程に、かつてないレベルの拒絶反応を起こしている。"現在ある姿"を受け入れ難い心理に陥っている。対して、
「聴かなくてもいい」
突き放して言わざるを得ない鬼束さんの立場だったと思う。そう、過去に縋りたいわけではないのだ。ベールに包まれた存在にされた"あの頃"の鬼束さんに戻る事が原点回帰だと考えるなら、大きな捉え違いをしている。EMI時代はプロデューサーによって形作られた"シンガー鬼束ちひろ"のイメージが、少なからず鬼束さんの活動に対する自由を束縛してきた事は明らかだ。
~やりたい事をやって行く~
本来、これが世に作品を生み出すアーティストの根源となるものだ。この「剣と楓」は、しっかりと原点への立ち返りを果たしたのだと、はっきりと教えてくれる一枚となっている。
PS:ジャケットの題字は、鬼束の妹さんが書いたものだそうだ。