傾奇者として名高い前田慶次郎を題材とした作品です。
滝川一益に従って関東に赴いた頃から米沢に隠棲するまでの後半生を中心に、豪放磊落な生き様を描いています。
前田慶次郎を描いた作品として名高いのは隆慶一郎の「一夢庵風流記」で、これを原作とした「花の慶次」という少年ジャンプに連載をされた漫画によって世間でも有名な武将の1人に数えられるまでになりましたが、実はその出自も生年も没年も不明な謎の武将です。
漫画では義理の叔父にあたる前田利家よりも若い壮年の武将に描かれていますが、実は利家よりも年上であり、その活躍が史実として残されている長谷堂城での戦いからの撤退戦の時には既に67歳であったとも言われています。
名前からして利益、利太、利大と複数伝えられていますし、実父も滝川一益、範勝、益氏、益重とはっきりとはしていません。
しかし滝川一族の出身であり、母が利家の兄である利久の後妻に入ったことで連れ子の慶次郎が前田姓を名乗ったこと、織田信長が前田家の家督を利久から取り上げて利家に与えなければ前田家の家督を継いでいたであろうことは間違いないようです。
当作品は慶次郎の年齢を史実に合わせた上で、しかし水風呂や朱槍、林泉寺の和尚とのやりとりなど有名な逸話を散りばめながら、慶次郎のいたずら坊主のような、しかし一本筋の通ったまさに戦国時代の男らしい生き方を描いています。
ただ豪快なだけではなく、利家を蔑みながらも大国を担う重責に同情をするなどの機微も見せており、文化人としても有名な慶次郎を表裏無く描いた点では、隆慶一郎にも優るとも劣らない筆力を見せつけてくれます。
ifノベルズも手がける作者らしい想像力に富んだ作品でもあり、非常に読み応えがありました。