前橋汀子さんの音楽から醸し出されるその繊細な演奏のニュアンスは手に取るように感じられます。物凄く丁寧に弾く方で、ケレン味のない真っ当な王道の演奏といえましょう。
若い時から日本を代表するヴァイオリン奏者ですから、当然なのですが、技術的にもしっかりと丁寧に演奏されています。何より真摯な演奏スタイルですから、正統派のヴァイオリニストですね。情熱的な音楽に対しても、けっして崩れることがなく、作曲家の意図を考え、音楽と正面から向き合っているのが感じ取れました。
エルガーの「愛の挨拶」では気品が感じられ優しさに満ちた音楽が展開されます。メロディーの美しさを際立たせるような高音の伸びが心地よかったです。
マスネの「タイスの瞑想曲」は、ヴァイオリンの曲集として多く取り上げられる名曲で、丁寧に慈しむように歌い上げています。
ドヴォルザークの「わが母の教えた給いし歌」の懐かしさと寂しさが入り混じったような哀愁を伴う演奏に心が動かされます。低音の重厚な響きがボヘミアの大地を髣髴とするような雰囲気を醸し出していました。
1984〜2001年に発売された「ヴァイオリン小品集100」のシリーズからのベスト・セレクションです。何十年とヴァイオリンに向き合ってきた前橋さんの音楽性の深さを感じさせるまさしくベストの演奏を収録したアルバムだったと思います。