“Step out of your confort zone”を、「前に進む力」とすっきり訳したこの本。
さすがにミュージシャンの本らしい、瑞々しい感性が溢れている。
表題の響きがいいな、と思いながら読み進むと、だんだん自分の中からその響きが聴こえてくるような気がする。
Jazz好きには、“サドメル”の後継バンドである、ヴァンガード・ジャズ・オーケストラ(VJO)のリーダーの本、というだけで興味をそそられるだろう。
黒人に実質的な公民権が認められたばかり、1960年代半ばの人種差別の激しい時代。サド・ジョーンズは黒人、メル・ルイスは白人という双頭リーダーで、メンバーも様々な人種混合のビッグバンドという奇蹟が存在していた。。。
こんな時代に、あり得ないダイバーシティと、その優れた音楽もまた奇蹟のようなビッグバンドだったが、そのバンドとダグラス氏との出会いのシーンには思わず興奮する。
40数年を経た今もその伝統は変わっていない。引き継がれるその伝統を、ダグラス氏は“遺産”と呼ぶ。ヴァンガード(先駆者)のプライドを底に湛えながら、その優れた音楽的価値をさら進化させつつ今に至っているのだ。
現代においてビッグバンドジャズは、音楽ビジネス的には地味な領域だろう。しかし、VJOは常にグラミー賞や海外のアワードに名を連ね、2009年のグラミーを受賞している。このような営々と築かれて来た価値を認識し、高く評価する“グラミー賞と言う仕組み”には、やはり侮りがたい世界があることを思う。
第4章の、「組織のボスは誰か」という見出しが目を引く。答えは「組織には『使命』があり、それ自体がボスだ」と。
このバンドが長く続いてきた、あるいは続けてきた秘密がここにある。
金銭や地位や名誉のためにやってきたのではない。
そうした「外面的価値」を超えた価値を、優れた音楽とそれを継承する「志」の中にこそ見出してきたのだ。
ダグラス氏は、パーカーでもマイルスでもなく、コルトレーンでもない。
いわゆる“Jazzジャイアント”ではない。この本のトーンは、「天才の中の天才」である彼らの印象とは明らかに違う。
しかし、ダグラス氏の飾り気がないシンプルな言葉からは、じわりと生きる勇気と知恵が迫ってくるのだ。
彼の言葉は深く豊かな泉を思わせる。そこには、過酷な経験を経て磨かれた愛情あふれる眼差しがある。
そして気がついた。
「そうか!これは“バストロンボーン”なんだ」と。。。
一発でドラスティックに局面を変えるリズムセクションでもなく、大向こうを唸らせるようなホーンセクションのソロイストでもない。バストロというコンセプトは、目立たないけれど音楽の基底部を支え、豊かな音楽的厚みを確保するために存在する。自分をあまり主張することなく、全体のためになくてはならない重要な存在なのである。
そのコンセプトは人生にも通じるのではないだろうか。キャリアにもまた。。。
このダグラス氏の本は若い人たちにはもちろん読んでほしいが、シニアと言われる層にもぜひとも読んでほしい。
人生をさらに深く見つめ、豊かなものにするために。