非常に興味深い本でした。
「利他性」というと“ボランティア”とか“慈善”とか言う言葉を連想してしまいがちですが、著者の言う「利他性」はそうした考え方とは一線を画すものでした。そういう旧来の視点からすれば、ここで論じられている「利他性」は“組織の柔らかさ”、“組織の柔軟性”と解釈すべきでしょう。しかし、この本を読み終えれば、そうした旧来の考え方自体を変更しなければならないことに気づくはずです。
一時期のITブームの折、“機械化によってブルーカラーの生産性は向上した。これからはホワイトカラーの生産性である”と言われていました。確かに、このamazonのようなネットビジネスの出現やデータベースの高度化によって、ホワイトカラーの生産性はある程度は向上しました。ですが、本当にクリエイティブな部分での生産性は、ITで向上したとは言いがたいものがあります。
本書を読んで、このクリエイティブな部分での生産性向上を実現するための答えのひとつが「利他性」なのかなと思いました。利他性が実現する組織のフレキシビリティが、ホワイトカラーの生産性向上に貢献することが、非常に広い視野のなかで緻密に論じられていました。
これは、産業・組織心理学での「組織市民行動」という考え方、世界銀行のプロジェクトで注目を集めている「社会関係資本」あるいは「ソーシャルキャピタル」、一時期IBM(米)が取り組んでいた(SNSでエンターテイメント化された)「ソーシャルネットワーク分析」、もしくはピーター・M・センゲの「学習する組織」といった概念などと重なる部分のある、組織マネジメントの新しい“パラダイム”と理解すべきと思われます。
組織論等の研究者はもちろん、ホワイトカラーの生産性向上を目指す実務家にも、新しい視点を提示してくれる好著でした。