NHK杯戦の第60回を記念し、数々の名場面やドラマをたっぷり振り返り、観賞しよう、との趣である。
若いファンは、当初ラジオ放送だったと聞いても信じられないだろう。将棋ファン歴40年以上の評者も、ラジオ時代の思い出を語れる棋士は今や加藤一二三 九段だけ、の事実が感慨深い。
その所為もあり、また、“歴代優勝者が選ぶ”という趣向の特集番組がベースということも相俟ってか、ラジオ時代の棋譜は皆無。やはりテレビ映像の力は偉大だ、ということか。
となれば、テレビ桟敷受けしそうな将棋、指し手に意識が集まるのは致し方ない。だが、それほどまでに記憶に残る指し手は、結局、後世まで語り継がれるだけの価値が出て、伝説になるのだ。
個人的には、中川大輔七段が羽生善治名人に食らった、歩1枚すら余らないピッタリ大逆転トン死(P.102)が、羽生マジック代表作として印象深い。
それにしてもNHKの将棋書籍は、『
NHK将棋シリーズ_第59回NHK杯テレビ将棋トーナメント 勝敗を分けた次の一手』の評でも触れたが、肝心の棋譜の扱いがまるでお粗末だ。
図面化された指し手がゴシック表記されているが、数個ある局面図のどれと対応しているのか、一瞬戸惑う。局面図から逆に棋譜に戻るときも、図面に付記された「○手目」は棋譜のどのあたりか、見当がつけづらい。
これらの混乱は、指し手のそばに「第○図」と付記するだけで解決するはず。図面番号と指し手をひと組に扱うやり方は、将棋専門誌や新聞の棋譜表記法でお馴染み。もっとよく研究し、参考にすべきだ。
持ち時間表記もそうだ。何十年の間には持ち時間や秒読みのルールが何度か変わっているが、その将棋はどのルールで指されたのか、たとえば「なぜこんなに早く秒読みになっているのか」などの事情がわかりにくい。扉らしきページの隅っこだけにチマチマ書かず、各棋譜のそばにしっかり書いてほしかった。
インタビューやエッセイ記事は総じて楽しめた。それだけに、棋譜の扱いが残念。