いまや「隠蔽捜査」といえば今野敏の代名詞ともいえる作品だ。すでにシリーズ第3弾まで刊行され、現在は第4弾がとある小説で連載されているようである。読売新聞の本書の刊行記事を読んでまず驚いたのは、「3.5」という数字であった。ここが実に面白い。しかもこれは短編集だ。
いつもと異なり、本書は伊丹サイドからのストーリーであり、そこに東大法学部卒で「全く頭があがらない」(伊丹自身の言葉を借りれば、「あいつにはかなわない」)同期入庁の竜崎の援護射撃が本書への愛着を抱かせる。個人的には伊丹にはもっとしっかりしてほしい(?)のだが、警視庁刑事部長という重責ポストにいながらも、一人の警察官、人間としてタフに生きねばならないという気概はよく伝わってくる。当然のことだが、竜崎とは正反対の性格である二人であるからこそ魅力が湧くのだ。
いわば「合理性」を武器として「たてまえ」だけで突き進んで、結果的に大きな成果をおさめている竜崎に違和感をもつ人もいるだろう。「世の中、そんなにうまくできていない」と。むしろ伊丹のほうがずっと身近でリアルな存在だ。ただ著者は、だからこそ竜崎を「変人」として設定し、その変人ゆえに難事件をこなしてゆく<型破りな警察官僚>を投影しているのだろう。彼は「理想主義」者に違いないが、そこに伊丹は一種の憧憬の念を抱くのだ。二人の会話は読んでいて本当に愉快である。
本書を通じてファンになったかたは、「3冠」を受賞した第1弾と第2弾に手を伸ばすことだろう。第3弾ではあの竜崎が美人女性キャリアに○をしてしまう話だが、その裏話ともいうべき作品「試練」も本編に所収されている。ストーリーのテンポも軽快で、これまでの作品では十分に知られていない二人の内面をさりげなく描き出している。今後の「隠蔽捜査」シリーズにこれまで以上の期待感をもつ読者もきっと多いはず。他のレビュアー同様、是非とも推奨したい。