温泉を訪れるカップルの短編5を収録。わが家の近所にも温泉があるが、すれちがう湯上りのカップルの表情は、何かホッとしているというか、満ち足りているというか、無防備というか、とてもすっきりとした表情をしている。
「初恋温泉」にも様々なカップルが登場するが、どの主人公も、温泉にきて心が解放されるのか、素直に自分と彼女との関係を見つめなおす。過去の様々な場面が去来する。何もかも順調な筈なのに離婚を言い出した妻、しゃべり過ぎる2人が温泉で静寂を体験、不倫の終末、保険外交員の妻とのすれ違い、高校生カップルの初めての温泉旅行。どの話もしっとりとした良さがある。
個人的には、彼女にいいところを見せようと遮二無二頑張って都心に次々にダイニング・レストランをオープンさせたのに彼女の心が離れていってしまうタイトルにもなった「初恋温泉」が良かった。彼女の「幸せなときだけをいくらつないでも幸せとは限らない」との言葉が心に沁みる。この1話だけでも本を買う価値があるかな。