奇矯なキャラたちのコミカルな掛け合いというオブラートに包まれて
提示されるのは、心に傷を負った社会的弱者たちの「癒しと再生」。
涙と感動を露骨に狙った、一見あざといそうした手法を嫌味に感じさせないのは、
語り口の巧さもさることながら、作者自身、本作が一種のファンタジーであることを
自覚しているからでしょう。ただし、打ち出されている真摯なメッセージは、掛け値
なしの本音ですが。
◆「スプリングラフィ」
春休みの早朝、音楽室に出没する侵入者の謎。
◆「周波数は77.4MHz」
慢性的に金欠状態の吹奏楽部に、生徒会長の日野原が「ある仕事をし
てくれれば、予算の上乗せを融通してやってもいい」と持ちかけてきた。
その仕事とは、地学研究会の部長・麻生美里を生徒会室に連れて行くこと。
麻生は、廃部の危機にあった地学研究会を一年で立て直した女傑で、
県立大の地学研究会との共同研究で実績をあげ、今年度は二十万円
もの予算が、地学研究会に割り当てられることになっていた。
しかし、麻生は、その二十万円を突っぱねたという……。
本作の謎は、大きく二つ。
ひとつは、非常に希少な鉱石を発見したはずの麻生たちが、何故かその在り処を大学側
に告げようとしないこと。もうひとつは、チカとハルタが聴いている、FMはごろもの『七賢者
の人生相談』という番組が放送されている理由です(作品の主題とかみ合った鉱石の
在り処が秀逸)。
当初は無関係に見えた二つの謎を終盤で交錯させ、解体することで、運命の残酷さと、
人と人との絆を浮かび上がらせていく手つきは作者の真骨頂といえ、堂に入ってます。
◆「アスモデウスの視線」
名門・藤が咲高校吹奏楽部の熱血顧問が自宅謹慎になった。謹慎になる前、
彼は担任しているクラスで、一ヶ月の間に席替えを三回も行ったという……。
席替えと謹慎の謎解きをしていくうちに、事件と無関係に思われていた人に
突然スポットが当てられ、それまでの事件の構図と、まったく違った絵柄を
浮かび上がらせていく展開がスリリングです(冒頭のモノローグに注目)。
◆「初恋ソムリエ」
寓話仕立てで語られる、過去に埋もれた初恋と犯罪。