正義ブームに乗って我が国でも正義が論じられるようになってきましたが、不思議と経済学者が正義を語るところには出会えませんでした。市場主義経済のすばらしさを主張した結果が、格差社会をもたらしたように見える現状をうかつに肯定できないからでしょうか。そうした中で、刑務所を題材にして経済学で正義を語ろうとしたのが本書だと思います(注:正義という言葉は本文中では用いられていません)。
格差社会という言葉が我が国に定着したことで、セーフティネットのあり方が議論されるようになりました。格差社会の底辺といえば、罪を犯して社会から排除されようとしている人たちでしょうが、彼・彼女らをどう扱えばよいのか。情緒的な議論を排して、経済学的に考えるとどうなるのか。こうした問題意識から刑務所のありようを分析し、あるべき方向性を本書は示しています。幅広い議論を網羅していますが、特にポイントと感じたところは「経済学の比較優位の考え方に立てば、社会的弱者を排除しないことに合理性があること」「厳罰による犯罪抑止効果は実証的な根拠が明確ではないこと」「刑務所は高齢者や障害者の収容者が増えており、刑務作業を通じて矯正を図るという機能が果たしにくくなっていること」などです。
刑務所は単なる隔離施設ではなく、格差社会における重要なインフラであると捉え直す必要があると感じました。普段は意識することのない刑務所という存在ですが、格差社会、高齢社会を考えるうえで重要なファクターであるとの気づきを与えてもらえました。経済学は正義についても語ることができると感じさせてくれる良書だと思います。