本書は基本的にデータとその解析など、法務省の資料によって、「刑務所」の現実を炙り出している。
巷には出所者や元刑務官による体験を元にした書も出ているが、それらとは異なり、事実と改善策を主にしている。
前者は、自身が居た所の話に終始知るきらいもあるので、全体像は本書の方がよくわかるだろう。
95年以降の10年間に、凶悪犯罪と殺人に関するマスコミ報道が5倍に増えたとの報告がある。
事件件数自体は、そのはるか前の50年代から減少傾向なのだが、世論は治安悪化を訴え、その結果判決もそれに引きずられ、90年代後半から厳罰化の傾向が強まり、5年を超える長期刑の言い渡しが95年までの2倍になっている。
無期刑受刑者の平均服役期間も95年の20年から、今や30年超と大幅に伸びており、05年の刑法厳罰化改正により、仮釈放の審査では、原則として被害者遺族と検察官の意見聴取を行うこととなったので、仮釈放は今後さらに認められず、長期間服役すればするほど必然的に帰住先の確保が困難となり、それが更に仮釈放を困難にしており、06年には無期受刑者が1600人を超えたが、00年から09年までに出所者は65名、獄中で死亡した受刑者は126名と遥かに多くなっている。
また、自身で考えるのではなく、単に服従を強いるだけの服役生活は、指示待ち人間化させるだけで、社会への再適応が困難になりがちである。
犯罪と受刑者率とは相関関係がないことは実証的に確認されており、福祉国家ほど国民が他者を疑い、警戒するのではなく、社会における共生の精神を共有しているので、受刑者率も低い。
本書では諸外国について詳しくは触れられていないが、フィンランドでは、無期刑でも最低12年(平均14年)で仮釈放され、開放型の刑務所があり、受刑者はヘルシンキ市内に通勤したり、サウナや体育館も自由時間には利用可能だし、最低賃金の月額1000ユーロが支払われ、そこから食費・宿舎代・税金など250ユーロが差し引かれる。
欧米諸国や韓国・台湾などでは、収監ではなく社会奉仕命令などの社会内処遇措置を取る制度が発達し、作業報奨金の面でも社気保険や税などが引かれた手取り月額が、ドイツ2万9000円、フランス5万、で、ドイツ・オーストリアでは失業保険の適応もある。
これを日本の平均月額4000円(1/4の受刑者の出所時所持金1万円以下)と比べて見られよ。
日本では、釈放された刑務所から家に帰る交通費もそこから支払わねばならないため、家にたどり着く前にそれを使い果たしてしまう場合もあり、その後のフォローの貧困さや生活苦もあり、出所後5年以内の再犯率が50%ある。
山本譲司が指摘した、介護の必要な高齢者、知的障がい者なども地域生活定着支援センターの支援や療育手帳の取得などが考慮されてきているとはいえ、まだまだ不十分で、軽微な罪でも、再犯で身寄りもなければ実刑になる可能性が高く、刑務所が福祉施設化している。
最近増加している薬物犯に対しても、オランダのような薬物離脱プログラムは行われてはおらず、再犯を防いではいない。
刑は応報・報復ではなく、行為者の反社会的な性格を改善するための措置であるとの改善刑論・教育刑論が建前だが、実際は、復讐刑にしかなっておらず、民間刑務所や自立構成促進センターをの除くと社会復帰につながっておらず、収監と出獄のスパイラルとなっている点も本書から浮き彫りになる。
これを冤罪防止の取り調べ全面可視化と共に本来の矯正教育刑にし、社会の受け口も広げ、なによりセーフティネットを充実させねば、殆どいない“勝ち組”以外の大多数の人々は、いつ自死か犯罪者かを選ばされる事態になっても不思議ではなく、そのような社会保障の貧困さを放置しておいてよいわけがないのだ。