あ〜あ、樋口有介も今流行の警察小説書いたのか、売れるものを書けと編集者に言われて書いたのか、という気持ちで読みはじめたのだが、これが大間違い。
ストーリーは二つの話が平行して進む。
ひとつは、事なかれ主義の警察官が、同僚の自殺事件を追うという内容。警察官の汚職のエピソードなども織り込まれるものの、一般の警察小説のように、「悪徳警官」も「ヒーロー」もいるわけでない。平凡な警察官が事件を淡々と追いかける、という内容。
もうひとつの話の背景は、風俗街とそこで働く人たち。養護施設で育った若者、売春婦、小説家崩れの風俗ライターたちの物語。「アルジャーノン」風の若者を中心に、風俗街の日常が淡々と描かれる。
なんか、警察小説としてはのんびりした展開だな、と思うのだが、これは作者の周到な仕掛け。
「わたしなんか、死んでもいいの・・・。
わたし、医者にも看護婦にも、ほかの誰にも、触られたくないの。
わたしの躰にも、わたしの心にも、もう誰にも、触られたくないの」
淡々と続く二つの物語は、売春婦のこの悲痛な言葉をきっかけに交錯し、そして衝撃的なラストを迎えるのである。鈍行列車に乗っていたら、いつの間にかにジェット・コースターに乗っていた気分、とでもいうのだろうか。
通常の警察小説の格好をしているけど、これは反警察小説。著者なりの、警察小説へのアンチテーゼか。
結末はとても悲しい。でも、なぜか癒される読後感。悲しい結末の向こうに、希望が透けて見える気がするのは私だけだろうか。