読んでいて、設定がやけに分かり易くエロティックだなぁ と思った。
登場人物の輪郭がステレオタイプに分かりやすい>が安っぽくならないというのは
最新刊『静子の日常』でも感じたが、これは作者のたぐいまれな文章力ゆえの余裕か。
閉じられた南の島というロケーションに
長い髪にいつも白いブラウスとニットのロングスカートという画家の妻。
おまけに(ナースではないが)彼女は養護教員。
グラーマーで、その上いつでも体にぴったり張りつく服を着ている
『本土さん』と戦闘的な不倫をかさねている同僚の女教師。
そこへ「地の裂け目から現れたような」殉教のキリストとみまがう顔をした不思議な男。
なんと こちらは音楽教師。
岬の住宅で初めて見かけた男はなぜか木製の大きな本棚をハンマーで叩き壊しており
霧雨にけぶる校庭には男の弾くピアノが流れ...
と こういうふうに書くとなんだかハーレクイン小説のようだが
実際「大人のための恋愛小説」という意味で上質なハーレクインなんだと思う。
抜群の文章センスと卓越した緻密な構成力(プラス作者の洒脱な感性)が
ややもすれば『叙情的』『純文学的』な方向に読者を連れ去ってしまうが
この作品は直木賞の位置にあってこそ正しい。
恋愛小説ときいて一番に挙げたい一冊に姫野カオルコ「ツ・イ・ラ・ク」があるが
余談ながらこちらは(やって やって やって)やりながら、 純愛に向かっている。
反してなにもしないこと...のいやらしさ(ほかに的確な日本語がみつからないので)としたたかさ。
「寝た、寝た」と公言する同僚の教師、月江の「妻って人種はきっとみんな妖怪なのね」
という言葉に主人公セイの設定を面白がりつつ
移ろう島の自然の如くそれを静観している作者井上荒野が垣間見える。
保健室で男の棘を抜くセイと、セイが微妙に使い分ける島言葉のエロチシズム効果は抜群。
文章にムダがなくさすが井上光晴の娘さんという言い方は失礼か。
どこを取り上げてもクラクラするほどいやらしい...
と 言うような不埒な読み方も出来る軸のしっかりした一冊。